冬枯れの樹に
空海の遺した言葉は、時にはストン!と腑に落ち、時にはじんわり心に沁み、時には凛凛たる勇気を持たせてくれます。
世の中が大きくシフトしている今こそ、必要なメッセージかもしれません。
それ禿なる樹 定んで禿なるに非ず
春に遇うときは すなわち栄え華さく
(『秘蔵宝鑰』 巻上・第二 愚童持斎心)
それかむろなるき、さだんでかむろなるにあらず。
はるにあうときは、すなわちさかえ、はなさく。
冬枯れの樹は、いつまでも枯れているわけではない。
春になれば生き生きとした青葉や美しい花をつけ華やぐ。
空海が伝えたかったメッセージは、次の通り。
「どんな人にも仏性は備わっている。ただ、それが芽吹くには、外からの働きが必要。
太陽の光、温度、雨などが枯れ木を芽吹かせるように」
空海の代表作の一つ『秘蔵宝鑰』(ひぞうほうやく)とは、「宝の入った秘密の蔵を開ける鍵」。
悟りに至るまでの人の心を十段階に分けて論じています。
第二段階の「愚童持斎心」(ぐどうじさいしん)で、「無知な子供でも、他者と接することで食べ物を施す思いやりの心が生まれる」と空海は言います。(「斎」は「施す」という意味)
良い縁に出会えば、善人になる ― しかし、善の「種」は誰もが内に持っている、という意味です。
空海の言葉は、読み手すなわち私たち個々がどのように解釈しても良いと思います。
今、ここで、しんどい現世を生きている私たちなりの捉え方で。
なぜなら、空海は、現世で幸せになるための教え(現世利益)を説いているからです。
真言密教は難解だとか、呪術的だとかいう見方もありますが、空海の思想の中心は三つです。
一 人間中心主義(即身成仏。生きているだけで仏さま)
二 実践主義(宇宙のサポートを得るには自分自身を整えよう。行動が大事)
三 平等主義(宇宙レベルで人類みな兄弟。ワンネス)
ゆえに、「禿なる樹」もいろいろな解釈をして良いのではないでしょうか。
それ禿なる樹 定んで禿なるに非ず
春に遇うときは すなわち栄え華さく
コロナ禍の厳しい現実に直面していても
より良い未来へ
「ただ今シフト中」