空海の言葉

風の時代のメッセージ

眠たいときは寝てしまえ

行動が大事、という実践主義を唱えた空海でさえ、こんな文章を書いています。

 

文章は興に乗じてたちまち作れ。

興なくんば、睡るに任せよ。

睡れば大いに神を養う。

(『文鏡秘府論』)

 

ぶんしょうは きょうにじょうじて たちまちつくれ。

きょうなくんば、ねむるにまかせよ。

ねむれば おおいに しんをやしなう。

 

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文章は気分が乗っている時に、サッと作れ。

乗らないときは、寝てしまえ。

寝ている間にインスピレーションが降りてくる。

 

空海といえば、真言密教を確立する過程で数々の書物を遺していますが、文章の書き方・表現方法そのものを解説している珍しい文書が『文鏡秘府論』です。

現代でいう「論文の書き方」でしょうか。

 

「言葉」は人を導く基点。仏の教えが大切だとすれば、それを伝える「文章こそ最も大切」だと空海は述べています。

 

だからこそ、適切な文章が書けないときは、一旦心身を休ませることが大切。

眠っている間も脳は活動しているので、頭が整理され、必要な気づきが生まれるということだと思います。

よく、目覚め直後にアイディアが閃く、ということがあります。

眠っている間にインスピレーションを受け取っているのですね。

 

考え過ぎかもしれませんが、空海「睡る」という文字を用いていることも一理あるように思います。

「睡」の字義は「仮に眠る」です。

一方「眠」の字義は「永遠に眠る」「死」を含みます。

 

空海の言う「文章」を、「仕事」「課題」に置き換えても同じだと思います。

うんうん唸って不毛の時間を過ごすより、いったん休む。

上手くいかない自己嫌悪と焦りを手放して。

 

睡魔に抗うよりは、いっそのこと寝てしまえ、という言葉。その方が効果的だ、というアドバイス

ありがたいですね。

 

文章は興に乗じてたちまち作れ。

興なくんば、睡るに任せよ。

睡れば大いに神を養う。

 

瑞々しい青葉を繁らせる直前の禿なる樹のように。

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心は香、体は花

空海思想の三つの柱

一 即身成仏。生きているだけで仏さま。

二 実践主義。行動が大事。

三 平等主義。ワンネス。

 

この中の二つ目、実践の大切さを表した言葉です。

心を洗うて香とし 体を恭んで花とす

(性霊集 巻八)

 

こころをあろうてこうとし、からだをつつしんではなとす。

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心も体も清らかに、慎ましく。

 

仏前の香華のような人を讃えた言葉です。

 

空海の「実践主義」とは、決して厳しい修行のみを指してはいません。

また「書物ばかり漁る頭でっかちはだめ。感じ取ることが大事」とも。

 

花を飾り、香を焚くと、自然と気持ちが和み、ざわついた心が整ってきます。

自分が癒されていると、周囲の人たちにも安らかさが拡散します。

 

こんな話を高野山のお坊さんから聞いたことがあります。

「きれいな満月が湖面に映るには、湖面が穏やかでなければなりません」

満月を仏の慈悲だとすると、その慈悲を受けたい私たちの心が波打っていては、加護を受けられないというのです。

これが「加持」という言葉の意味だそうです。受け手側の意識や行動が大事ということです。

 

現実社会でも、双方向に共鳴すれば、優しさが広がっていくイメージです。

 

心を洗うて香とし 体を恭んで花とす

 

理屈抜きで、美しい言葉。

ただ唱えるだけでも、行動です。

 

そして

花を飾り、香を焚きましょう。まず、自分自身のために。

冬枯れの樹に

空海の遺した言葉は、時にはストン!と腑に落ち、時にはじんわり心に沁み、時には凛凛たる勇気を持たせてくれます。

 

世の中が大きくシフトしている今こそ、必要なメッセージかもしれません。

 

それ禿なる樹 定んで禿なるに非ず 

春に遇うときは すなわち栄え華さく

(『秘蔵宝鑰』 巻上・第二 愚童持斎心)

 

それかむろなるき、さだんでかむろなるにあらず。

はるにあうときは、すなわちさかえ、はなさく。

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冬枯れの樹は、いつまでも枯れているわけではない。

春になれば生き生きとした青葉や美しい花をつけ華やぐ。

 

空海が伝えたかったメッセージは、次の通り。

「どんな人にも仏性は備わっている。ただ、それが芽吹くには、外からの働きが必要。

太陽の光、温度、雨などが枯れ木を芽吹かせるように」

 

空海の代表作の一つ『秘蔵宝鑰』(ひぞうほうやく)とは、「宝の入った秘密の蔵を開ける鍵」。

悟りに至るまでの人の心を十段階に分けて論じています。

第二段階の「愚童持斎心」(ぐどうじさいしん)で、「無知な子供でも、他者と接することで食べ物を施す思いやりの心が生まれる」と空海は言います。(「斎」は「施す」という意味)

 

良い縁に出会えば、善人になる ― しかし、善の「種」は誰もが内に持っている、という意味です。

 

空海の言葉は、読み手すなわち私たち個々がどのように解釈しても良いと思います。

今、ここで、しんどい現世を生きている私たちなりの捉え方で。

 

なぜなら、空海は、現世で幸せになるための教え(現世利益)を説いているからです。

 

真言密教は難解だとか、呪術的だとかいう見方もありますが、空海の思想の中心は三つです。

一 人間中心主義(即身成仏。生きているだけで仏さま)

二 実践主義(宇宙のサポートを得るには自分自身を整えよう。行動が大事)

三 平等主義(宇宙レベルで人類みな兄弟。ワンネス)

 

ゆえに、「禿なる樹」もいろいろな解釈をして良いのではないでしょうか。

 

それ禿なる樹 定んで禿なるに非ず 

春に遇うときは すなわち栄え華さく

 

コロナ禍の厳しい現実に直面していても

より良い未来へ

「ただ今シフト中」